白い記憶
後編
「え?」
白雪の言葉に天国は目を見開いた。
「君は…「アマクニくん」だね?
大神照(てる)の従兄弟の…。」
「…?!照兄さんを知ってるんすか?!監督!」
やっぱりそうなんだね。
君はあの時のアマクニくんだ…。
白雪はふわりと笑った。
「僕は大神の高校時代の親友で…彼のキャッチャーだったよ。
君とも一度会った。覚えてないかな?」
白雪の話を聞くと天国は記憶を掘るように考え込む。
しばらくすると思い付いたように顔をあげた。
「もしかして…「ユキ」?」
天国の言葉に、白雪はぱっと顔を輝かせる。
「そうだよ…!覚えててくれたんだ?」
まさか本当に君の記憶に残っていたなんて。
「はは…ホントにユキさんなんだ…!
オレユキさんててっきり女の人だと思ってて…ってすみません!」
女性と思われていたのかと思うと、白雪は苦笑する。
「はは、いいんだよ。あの頃はよく女性と間違われてたからね。」
だが、次の台詞は少しばかり白雪にショックを与えた。
「それに照兄さんに「あいつ綺麗だけど好きになんなよ〜。」とか言われてたから。ユキさんて照兄さんの彼女だって思い込んでました…。」
「…。」
流石にこれは心外だった。
「あ、固まっちゃいました?」
天国はひょこ、と白雪の顔を覗きこんだ。
白雪の方は、天国の顔が至近距離に来たのを、
覚えのない胸騒ぎと共に把握した。
「…いや。」
自覚する程に赤らんだ顔を、眼鏡をかけ直すふりをして隠した。
「そうですか?ならいいっすけど。」
そう言って笑う天国の姿や、仕種まで。
本当に大神によく似ていた。
白雪は親友への回顧と、目の前にいる天国への知らない感情の命ずるままに
天国の頬に手を伸ばした。
「ユキさん…監督?」
「本当に…大きくなったね…。
あの頃の大神にそっくりだ…。」
白雪の瞳には切なげな感情が満ちていた。
少なくとも天国にはそう見えた。
「ユキさん…。」
「会いたかった…。」
君に。
溢れ出すような感情は目の前の存在に全て向かうのが感じられた。
そうだ。僕は…君が…。
「ユキさん…照兄さんが好きだったんですね?」
「え?」
何を言ってるんだ?
「…似てるのに…オレ…兄さんみたいに立派じゃないし…。
すみません、辛い思いさせてませんでしたか…?」
ちがう。ちがうよ。
そうじゃないよ。
「そんなことは…。」
「いえ…無理しないでください。」
違う。僕が好きなのは大神じゃない。
それははっきりと分かる。
君は大神に似てる。
だけど大神に似てるから君が気になるんじゃない。
大神に似てるから、君に胸騒ぎを感じるんじゃない。
君が君だから…。
「勘違いしないで…。」
白雪は天国をそっと抱きしめる。
「僕は大神が好きだったわけじゃない…
大神とはお互い親友以外なにものでもなかったよ。
だけど…君は大神とは違う…。
大神じゃない…君は…。」
熱に浮かされたように、白雪はくりかえした。
天国は戸惑い、驚いた。
この人を長く知ってるわけでは決してないが…こんなにすがるように抱きつく人だとは思わなかった。
こんなにすがって、自分を抱きしめるような人だとは思っていなかった。
「監督…。」
「好きだ…好きだよ、君が…。」
大神じゃない。
熱くまっすぐに生きた彼じゃない。
傷を隠して、ただ前を向こうとする君が。
記憶のなかで消え入りそうに立ちすくんでいた君が。
好きなんだ。
抱きしめた腕の中でいつか天国は静かに涙を落としていた。
大神。
僕の方こそ彼にとっては君の代わりかもしれない。
だけどそれでもいい。
あの記憶の中のちいさくてはかなかったものを守るのが望みだったから。
そしてあのちいさくてはかないものを手に入れるのが望みだったから。
僕は僕の望みをかなえよう。
それが君の望まないことだとしても。
end
思ったより白雪さんが白くなりましたが、最後にちょこっと独占欲を。
ほんとうなら芭唐の乱入とか、濡れ場突入とかいろいろ入れようかと思ってたんですが…。
収拾が付かなくなったのでなあなあになってしまいました…。
そーゆー空気を含ませといてなんなんだ。(泣)
今後前後編にするのは極力控えます。
空中分解必至になるみたいなんで…。
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